2026年2月2日(月曜日)

【レポート】
食と大地の研究所♯001阿東のお米編

お米の味は産地で変わる?
阿東のお米食べ比べ

2025年12月21日実施

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1|この研究所について

「食と大地の研究所」は、食べものを入り口にして、私たちの暮らしと、その土地の環境とのつながりを考える研究所です。

今回のテーマは「お米」。毎日のように食べているお米ですが、その味はどこまで産地の違いとして感じ取れるのでしょうか。

萩ジオパークのエリア内に位置し、山口県では米どころとして知られる阿東地域で育ったお米を使って、22名の特別研究員(参加者)の皆さんと一緒に、大地の観察・聞き取り・食べ比べという3つの調査を行いました。

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2|調査① 大地の観察

地形図や標高図を観察し、阿東という地域の特徴を確認しました。阿東は山口県内でも山間部に位置する地域です。一般に日本では、大きな川の河口部、つまり沿岸部に広い平地ができやすく、稲作もそうした地域で発達してきました。

ところが阿東には、山間部でありながら、徳佐盆地を中心とした広い平地が広がっています。これは、野坂山などの火山の活動によって川がせき止められ、いったん湖ができ、その湖が干上がったことで生まれた盆地だと考えられています。

また、同じ阿東地域の中でも、嘉年・徳佐・地福では標高が少しずつ異なります。最も標高の高い嘉年と、最も低い地福とでは、約100mもの差があることも分かりました。

図1:山口県の標高色分け図

図2:調査地域の標高色分け図

図3:調査地域の地形図
(カシミール3D)


 

3|調査② 農家さんへの聞き取り調査

阿東の3地域(嘉年・徳佐・地福)で米づくりを行っている農家さんに来ていただき、産地の特徴について話を聞きました。

聞き取りの中で、次のような話がありました。

  • 嘉年や徳佐は粘土質の土壌が多いのに対し、地福は砂質の土壌で水はけが良い
  • 嘉年や徳佐では水源が近く、きれいな湧き水を使っている(嘉年は阿武川の源流、徳佐は十種ヶ峰の伏流水)
  • 米の味は、精米の方法や、精米してからの時間によって大きく変わる
  • 炊くときに使う水によっても、味の感じ方が変わる

また、農家さんからは「成分分析の機械で出た数値と、実際に食べたときの感覚は必ずしも一致しない」という話もありました。そのため、今回のような実際に食べて比べる官能評価が大切だということが強調されました。

聞取り

 

4|調査③ 食べ比べ調査

今回の調査では、4つの産地(嘉年・神田地区産、徳佐・神角地区産、地福・若小幡地区産、県外・新潟県産)のお米を用意し、産地を伏せたまま、次の流れで進めました。

  1. 生米を見て、違いが分かるか観察する
  2. 炊きあがったご飯を食べ比べる

「正解」を当てることが目的ではありません。自分がどう感じたかを、言葉にすることを大切にしました。

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4-1.生米を観察してみた結果

はじめに、生の状態のお米を観察しました。

色や粒の形、大きさなどを比べてみましたが、はっきりとした違いを見つけることはできませんでした

このことから、お米の違いは、見た目だけでは分かりにくいということが分かりました。

4-2.食べ比べの方法
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食べ比べは、次のような方法で行いました。

  • 4つのお米を同じ条件で炊く
  • 産地名は伏せ、A〜Dの記号で提示
  • 香り・甘み・もちもち感について順位をつける
  • 同じ順位をつけてもよい
  • 感じたことは自由にメモする

人によって感じ方が違ってよい、という前提で進めました。

4-3.調査結果
①どれくらい産地の違いを感じ取れたか

まず、香り・甘み・もちもち感について、参加者がどれくらい産地の違いを感じ取れたかを確認しました。

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図4:産地の違いを感じ取れたか

その結果、香りについては「どれも同じに感じた」「違いがよく分からなかった」と答えた人が多く、産地の違いを感じ取りにくい項目であることが分かりました。
甘みについては、香りよりも違いを感じた人が増えましたが、感じ方にはばらつきがありました。
一方、もちもち感については、参加者全員が「何かしらの違いがあった」と答えており、今回の調査では最も違いを感じ取りやすい項目でした。

②香りの評価結果
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図5:香りの強さの順位付け結果

香りについては、人によって感じ方が大きく違っていました。

たとえば、産地Bは「一番香りが強い」と感じた人が多かった一方で、「一番弱い」と感じた人も多くいました。同じお米に対して参加者によって評価が正反対になっており、参加者の間で共通した感じ方ができていたとは言えません。

また、図4でも、香りについては「産地の違いが分からなかった」と答えた人が多くいました。

これらのことから、香りについては、産地ごとの違いを比べる前提が十分にそろっておらず、今回の結果から傾向を読み取ることは難しいと考えられます。

③甘みの評価結果
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図6:甘みの強さの順位付け結果

甘みについては、香りほど評価がばらばらではありませんでした。

1位に選ばれたことが多かった産地AとCは、4位に選ばれることが少なく、逆に1位が少なかった産地BとDは、4位がやや多い、という関係が見られます。このことから、甘みについては、評価の向きがある程度そろっているようにも見えます。

ただし、図4を見ると、甘みについても「違いが分からなかった」と答えた人が一定数いました。

そのため、甘みについては、産地の違いがありそうだとは感じられるものの、はっきりした傾向があるとまでは言えず、参考として見るのがよさそうです。

④もちもち感の評価結果
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図7:もちもち感の強さの順位付け結果

もちもち感については、全員が何らかの違いを感じ取っていたことをふまえて結果を見ることができます。

その上で図7を見ると、産地Dだけが、ほかの産地とは少し違い1位2位に順位付けした人がやや多かった(1位にした人:40%、2位までに入れた人:約64%)ことが分かります。評価が完全にそろっているわけではありませんが、「もちもち感」という点では、産地Dがやや違った印象を与えた可能性が考えられます。


 

5|見えてきたこと

● 比べられるものと、比べにくいものがあった

今回の調査で分かったことの一つは、すべての項目が同じように比べられるわけではないということです。

香りについては、人によって感じ方が大きく違いました。同じお米を「いちばん香りが強い」と感じた人もいれば、「いちばん弱い」と感じた人もいます。このような状態では、産地ごとの違いを比べること自体がむずかしいと言えます。

甘みについては、香りほどばらばらではありませんでした。ただし、「違いが分からなかった」と感じた人もおり、はっきりした判断が全員で共有されたわけではありません。

● もちもち感だけは、全員が違いを感じていた

一方で、もちもち感については、参加者全員が何らかの違いを感じていました。これは、今回の調査の中でとても大切な点です。

「違いがある」と感じる人が全員そろってはじめて、どの産地がどう感じられたのかを比べる意味が生まれます。

この前提に立って見ると、もちもち感については、産地Dだけが、ほかの産地とは少し違う評価のされ方をしていました

● 県外産のお米が、少し違って感じた?

ここで、今回比べたお米の産地を整理しておきます。

産地A:嘉年・神田産

産地B:徳佐・神角産

産地C:地福・若小幡産

産地D:県外・新潟県産

4章で見た通り、もちもち感については、産地Dがほかの産地と少し違う評価のされ方をしていました。産地Dは、今回の中で唯一の県外産であり、育った土地の条件や栽培のしかたが異なります。

もちろん、今回の調査だけで理由を決めることはできません。しかし、産地を知らずに食べた結果として違いが見え、その後に産地を知ることで新しい問いが生まれた、という流れは、とても重要です。

● 分からなかったことが、次の一歩になる

この調査は、「どのお米が一番か」を決めるためのものではありません。分からなかったことを、そのままにせず、次の問いに変えることが目的です。

今回の結果から、たとえば次のような調査が考えられます。

  • 同じお米を、炊き方だけ変えて比べる
  • 水を変えると、もちもち感はどう変わるか
  • 阿東の中で、条件を一つずつそろえて比べる

 

6|特別研究員(参加者)の考察と次の問い

以下は、調査の最後に参加者のみなさんが書いてくれた「考察メモ」の内容です。

6-1.感じたこと・考えたこと

「どれもおいしかった」「楽しかった」という声

  • おいしかった。たのしかった。
  • どのお米もとてもおいしかった
  • 日本のお米はどこもおいしい!

「違いが分かりにくかった」「難しかった」という声

  • 違いを判別するのが困難。どの米もとても美味しい。
  • 美味しいお米の味のちがいはわかりづらい。
  • 思っていたより違いがわからなかった。
  • 香りと甘味はわかりにくかった。

香り・甘み・食感についての具体的な気づき

  • 香りはちがいがわかりづらかった。冷えてくると味が変わるのでまよってしまった。
  • 香りや甘みの違いを感じることができなかったが、食感の違いは小さな差で感じられた。

条件や個人差に目を向けた声

  • 違いが明確に分かったわけではないが、県内のお米はどれもおいしかった。
  • 阿東産、県内産、県外産くらい条件が違うともっと違いが感じられたかもしれない。
  • 味覚・嗅覚等、個人差がある(日頃の食生活との関わり)

食べ方・体験そのものへの気づき

  • 正直味や香りなどの違いは分からなかった。しかし、こんなにじっくりお米を味わうことはなかったので、とても良い経験だった。
  • 標高や田んぼの地質によってお米にちがいがでるところは大変興味がある。
6-2.次に確かめてみたいこと(検証アイデア)

炊き方・水・精米条件に関するアイデア

  • それぞれのお米に合う炊き方の研究
  • 精米時期で香りが違うとのことだったので、精米時期もそろえた米で検証してはどうか。
  • 精米の時期は同じ方が良いと思う。
  • 精米の違いはどれぐらい影響するのか気になった。

条件を変えた比較・実験の提案

  • 軟水と硬水で炊きあがりの差。
  • 産地の水で炊飯したものと上水道の水で炊飯したもので違いはあるのか。
  • 生米での味の違いを比べたらどうなるのか。

比較対象や方法を広げるアイデア

  • コシヒカリ以外、別の品種。炊き方・水を変えての検証。酒米について学ぶ。
  • 産地(萩、山口)を少し広げてみると、差をもっと感じることができたのではないだろうか。
  • もう少し人数が多いとしっかり結果がでるかも。
6-3.米以外に探究してみたい題材

食材・農産物

  • パン
  • 野菜の味の違い
  • リンゴやナシ
  • ナツミカン
  • タマゴとエサ
  • ジャガイモ(ポテトチップス)

魚・海の食材

  • 瀬付きアジとそれではないアジで違いがどれだけあるのか。
  • 魚。瀬つきアジと他のアジ。
  • 大島の周辺でとれる海のものが、場所で味がちがうという話を聞いたことがある。

土地・水・地質との関係

  • 地質と食の関係は、この山口に住んでいるものとして興味深い。
  • 軟水、硬水の違いもしりたい。
  • 土の違いに興味があります。粘土質や砂地などの違いで、夏野菜などがどう変わるのか調べてみたい。
  • 土地の物のフルコース
6-4.そのほかの声
  • みそしるがくいたい
  • とても楽しめた。ぜひ次回も楽しみにしている。
  • 漬物までいただいて本当にうれしかった。
  • いつも同じお米を食べているので、ちがう土地で作られたお米を食べてみるのも楽しかった。
  • 食べくらべは難しいですが楽しい企画だった。
  • 生産者さんからおいしく食べるコツを教えてもらえるのが良かった。

 

7|この調査のまとめと、今後の進め方

今回の調査では、香りや甘みは産地の違いを感じにくく、もちもち感は比較的違いを感じやすい、という結果が得られました。ただし、いずれの項目も感じ方には個人差があり、一度の調査で結論を出せるものではありません。

6章に示した通り、参加者からは、炊き方や水、精米時期、品種など、米についてさらに検証を続けるための具体的な視点が多く出されました。

今後は、これらの意見をもとに、条件を一つずつそろえたり、変えたりしながら、米を題材とした検証を継続していく予定です。


 

<主 催> 萩ジオパーク推進協議会 <共 催> 山口市阿東総合支所地域振興課

<協 力>

佐々木繁さん(山口市阿東嘉年)/村田仲平さん(山口市阿東徳佐)/長安正巳さん(山口市阿東地福)/梅田妙子さん(阿東女性林業研究会)/道の駅 長門峡