2026年5月29日(金曜日)

【ニュース】

冷たい火山が、酒を育てる―「笠山風穴(ヒヤシ)を活用した日本酒熟成プロジェクト」が始まります

風穴日本酒ロゴ

 笠山(萩市椿東・越ヶ浜)の風穴「ヒヤシ」の冷気で、萩の日本酒を夏のあいだ熟成させる「笠山風穴(ヒヤシ)を活用した日本酒熟成プロジェクト」が始まります。豊田酒販株式会社(萩市土原)が主催のこのプロジェクトに、萩ジオパーク推進協議会は地元団体の「笠山ジオの会」とともに、風穴に関する科学的な知見と地域との関係を生かして協力者として関わっています。来る2026年6月5日、越ヶ浜の風穴倉庫にGI萩6蔵の日本酒(計6ケース・約72本)を搬入し、熟成を始めます。夏を越した酒は、秋に「ひやおろし」として出荷される予定です。

 電力も冷却装置も使わず、土地が生む冷気だけで酒を育てる。使われなくなりつつある風穴が、酒を熟成させる場として暮らしに還る。そして、地域とともに重ねてきた調査や信頼関係が、この一歩を支えています。

概要

名称 笠山風穴(ヒヤシ)を活用した日本酒熟成プロジェクト
開始 2026年6月5日(搬入・熟成開始)
場所 越ヶ浜集落内の風穴倉庫(萩市椿東)
方法 風穴の冷気のみで熟成(電力・冷却装置を使用しない)
主催・連携 主催:豊田酒販株式会社/連携:GI萩蔵元・笠山ジオの会・萩ジオパーク推進協議会 ほか

笠山風穴「ヒヤシ」とは

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 笠山の溶岩が積み重なった岩のすき間から、夏でも冷たい風が吹き出す場所です。海に近く標高がほとんどない土地(標高15m以下)に成立する「累石型風穴」は全国的にも珍しく、越ヶ浜ならではの環境です。夏でも電力を使わず、年間を通じておよそ12〜16℃の低温に保たれます。

 地元では古くから「ヒヤシ(冷やし)」と呼ばれ、天然の冷房として、また、かつて盛んだったいりこ産業で茹でたいりこやちりめんを冷ます作業場として、暮らしの中で使われてきました。

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風穴仕組み

地域の積み重ねが、酒の置き場所を決めた

 どの風穴で酒を熟成させるか――その決め手になったのは、地域とともに重ねてきた歩みでした。萩ジオパークは越ヶ浜で、風穴を題材にした学習会やツアーを「笠山ジオの会」とともに長年続け、その中で地域との信頼関係を築いてきました。

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 これほど暮らしに身近な風穴でありながら、ヒヤシについての学術的な調査はこれまでほとんどありませんでした。地元の人でさえ、どの場所がどれだけ冷たいのかを、はっきりとは知らなかったのです。

 そこで2025年夏、萩ジオパークは笠山ジオの会とともに、親子参加型の調査プログラム「笠山ヒエヒエ風穴ラボ」を実施しました。参加した親子は温度計を手に集落の小道を歩き、冷気の吹き出すポイントを探して「風穴マップ」を作成。外気温が30℃を超える日でも、場所によっては倉庫内が12〜13℃にとどまることを、自分たちの手で確かめました。地域として初めて、どこがどれだけ冷たいかを目に見える形にしたこの記録が、酒を熟成させる場所を選ぶたしかな根拠になりました。

 体験して終わりの調査ではなく、地域や子どもたちの手しごとが、現実の取り組みを動かしたことになります。

▶笠山ヒエヒエ風穴ラボ「調査レポート」:https://drive.google.com/file/d/1WdmtI1IyOA_ems2i0m_8JBlgw8R_eF0A/view

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プロジェクトの意義

  • 電力を使わない、サステナブルな産業のかたち
    冷却装置も電力も一切使いません。年々厳しくなる夏の暑さの中で、土地そのものが生む冷気だけで酒を育てます。エネルギーを大量に使うことを当たり前としてきた産業のあり方を、気候変動の時代に問い直す実験的な試みでもあります。
  • 消えゆく地域文化を、"使うこと"で残す
    かつて暮らしを支えた風穴は、今では使う家が少なくなり、湿気を嫌って次々と塞がれ、静かに失われようとしています。そこに「酒を育てる」という新しい役目を与える。博物館に保存するように守るのではなく、もう一度暮らしの中で使われることで、結果として未来へ受け継がれていく。文化の本質的な継承のかたちです。
  • 地域や子どもたちの調査が、現実を動かした
    酒の置き場所を選ぶ根拠になったのは、地域や子どもたちが自分たちの手で測り、つくりあげた風穴の記録でした。学んだことが教室の中で終わらず、地域の現実をひとつ動かした。市民科学が社会に生きた確かな一例です。
  • 住民・事業者・行政・科学が、ひとつの風穴で出会う
    地域住民、酒類事業者、行政、そして科学的な知見が、ひとつの風穴を介して交差しています。立場の違う人たちがそれぞれの強みを持ち寄り、ひとつの取り組みを形にしていく。地域協働のひとつのモデルです。
  • 十年の土台があって、初めて実現した
    この一歩は、ある日突然生まれたものではありません。越ヶ浜で十年以上にわたり地域とともに重ねてきた活動と、その中で育んだ信頼関係があって、初めて踏み出せたものです。地道な積み重ねが、確かな果実を結びつつあります。

萩ジオパークの役割

 科学的な知見の提供にとどまらず、地域に根ざして重ねてきた信頼関係をもとに、地元住民と事業者をつなぐ調整役・伴走者として関わっています。

今後の予定

  • 2026年6月から、風穴倉庫内外の温度などを継続的に記録し、品質の安定性や高湿度(約90%)環境での影響などを確かめる検証期間に入ります(笠山ジオの会と萩ジオパーク推進協議会による調査事業)。
  • 検証を経て、2026年10月の「山口デスティネーションキャンペーン」にあわせ、「風穴熟成酒」としての名称やラベルを発表する予定です。次年度以降の本格展開を見据えています。
  • 2026年6月14日(日)には、萩ジオパーク推進協議会と笠山ジオの会により、笠山に点在する「ヒヤシ」を歩いてめぐる探訪ツアーを開催します(別途告知)。

お問い合わせ

プロジェクト全般・商品について:豊田酒販株式会社(本プロジェクト主催) ℡ 0838-22-8127

GI萩(地理的表示)について:萩市産業政策課 ℡ 0838-25-3811

笠山風穴「ヒヤシ」について:萩ジオパーク推進協議会 ℡ 0838-21-7765